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東京地方裁判所 昭和49年(モ)7381号 判決 1974年7月19日

申立人 株式会社世界堂

被申立人 株式会社アイチ(旧商号愛知産業株式会社)

主文

一  申立人、被申立人間の東京地方裁判所昭和四六年(ヨ)第七八九九号有体動産仮差押申請事件について、同裁判所が昭和四六年一二月三日になした仮差押決定は、請求債権額のうち二七万五九二七円を超える部分について、これを取消す。

二  その余の部分について、本件申立を却下する。

三  訴訟費用は被申立人の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(申立人)

主文第一項掲記の仮差押決定を取消す。

訴訟費用は被申立人の負担とする。

(被申立人)

本件申立を却下する。

訴訟費用は申立人の負担とする。

第二当事者双方の主張

(申立の理由)

(一)  被申立人が別紙目録記載の債権の執行を保全するため、東京地方裁判所に対し有体動産仮差押を申請したところ同庁昭和四六年(ヨ)第七八九九号事件につき、同裁判所は昭和四六年一二月三日に被申立人の申請を認め仮差押決定をなした。

(二)  そこで申立人は、東京地方裁判所に対し起訴命令を申請したところ、同裁判所は、昭和四九年三月五日被申立人に対し、該命令送達の日から一四日以内に本案訴訟を提起すべき旨の命令を発し、右命令は同年三月六日被申立人に送達された。

(三)  しかるに、被申立人は右期間の経過後も本案訴訟を提起していないから、右仮差押決定の取消を求める。

(被申立人の主張に対する答弁)

被申立人の主張(一)の事実は認める。同(二)の主張は争う。

(被申立人の主張)

(一)  被申立人は、申立人を被告としての住所地を管轄する新宿簡易裁判所に対し、訴外クサカベ絵具製造株式会社から債権譲渡を受けた昭和四六年一〇月六日現在の油絵具売掛代金債権一〇七万七九三五円のうち、二七万五九二七円につき、すでに本案訴訟を提起し、右事件は同裁判所昭和四九年(ハ)第二三六号事件として係属している。

(二)  よつて本件仮差押決定取消の申立は、請求債権額全部について、理由がないから却下されるべきである。

(被申立人の答弁)

申立の理由(一)(二)の事実は認める。同(三)の主張は争う。

第三疎明 <省略>

理由

申立の理由(一)(二)および被申立人主張の事実はいずれも、当事者間に争いがない。

そこで、仮差押の被保全債権額の一部についてのみ訴訟が提起された場合、これをもつて民事訴訟法第七四六条にいわゆる本案訴訟の提起があつたといえるか否かについて検討する。

ところで、本来、仮差押は、債権者の主張する被保全債権の存在が本案訴訟で確定されることを前提とする仮定的、暫定的処分ではあるが、仮差押命令はきわめて簡易な審理で発せられ、一方仮差押によつて被る債務者の経済的、精神的な不利益は少なくなく、それが長期にわたつて存続すればその不利益も一層増大するのが通常であるところから、債務者の救済の一方法として、起訴命令の制度が存し、この制度は、債権者をして可及的速やかに、被保全債権の確定的実現の手続をとらしめることによつて、債務者のおかれた不利益な浮動状態の除去を図り、しかも、なおかかる手続に進もうとしない債権者については、すでに権利実現の熱意がないものとして仮差押決定を取消し、仮差押決定、執行の存続をめぐる債権者、債務者間の利害の衡平を実現しようとするものであると解される。

右のように、起訴命令制度が、保全処分制度の運用における衡平の観点から仮差押決定、執行の存続をめぐる債権者債務者間の利害の調整を目的としているとするならば、被保全債権額の一部についての本案提起が被保全債権の全体についての本案提起といえるかどうかも主に、衡平の観点から判断されるべきであつて、この観点からすると、売掛代金請求債権のごとく、被保全債権が債権額の確定した可分な金銭債権であつて、その可分債権の一部についてのみ訴訟が提起された場合には、被保全債権額のうち残余部分については、起訴命令を遵守しなかつたものとして、その範囲で仮差押決定を取消すのが相当である。

仮差押債権者が本案訴訟で被保全権利の一部についてのみその確定実現を期待し、残余の部分について実現を期していないのにもかかわらず、請求の基礎が同一であることを理由として残余についての仮差押決定を取消さず、これを存続させざるをえないとすると仮差押債務者は、その被る不利益な浮動状態を除去するためには、被保全債権額全部に相当する解放金を供託するよう強いられることになつて、きわめて、衡平を失する結果を招来するので、訴訟提起された一部が請求の基礎を同一にするとしても、これをもつて起訴命令に応じた本案訴訟とみることはできない。

そうすると、右事実によつて、本件仮差押の被保全債権額一〇七万七九三五円のうち二七万五九二七円を超える部分については起訴命令を遵守しなかつたことになり、その限度で本件申立は理由があるからこれを認容し、その余の部分についての申立は失当であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行宣言につき、同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 舟橋定之)

(別紙)請求債権目録

一、金一〇七万七九三五円

但し、債権者が申請外クサカベ絵具製造株式会社より債権譲渡を受け債務者に対して有する昭和四六年一〇月六日現在の油絵具売掛代金債権の全額

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